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【評価・訓練計画が苦手なSTへ】思考を整理!臨床で迷わないプロセス構築のコツ3つ

「よし、新しい患者さんだ!まずは評価から…って、どの評価を使えばいいんだろう?」 「評価結果は出たけど、この数字から何が言えて、どう訓練に繋げればいいの…?」 「訓練計画書、毎回なんとなく同じような内容になっちゃう…これで本当に効果が出てるのかな?」

言語聴覚士(ST)として、日々の臨床で欠かせない「評価」と「訓練計画の立案」。これらは、質の高いリハビリテーションを提供するための、まさに根幹となるプロセスです。

でも、特に新人さんや経験の浅いSTの方にとっては、このプロセスに苦手意識を感じたり、「これで本当に合っているのかな?」と迷いが生じたりすることも少なくないのではないでしょうか。

たくさんの評価バッテリーの中からどれを選べばいいのか、得られた結果をどう解釈し、患者さん一人ひとりに合った個別性の高い訓練プログラムをどう組み立てていくのか…。考えるべきことが多くて、頭の中がごちゃごちゃになってしまう。そんな経験、あなたにもありませんか?

先輩たちのスムーズな臨床判断や、的確な計画立案を目の当たりにするたびに、「自分にはあんな風にはできない…」と自信をなくしてしまうこともあるかもしれません。

でも、大丈夫です。臨床で迷うのは、あなたが真剣に患者さんと向き合おうとしている証拠。そして、評価や計画立案のスキルは、**正しい「思考のプロセス」**を学び、繰り返し実践することで、必ず上達します!

この記事では、そんな評価・訓練計画に苦手意識を持つあなたが、もう迷わなくて済むように、**臨床の思考プロセスを整理し、自信を持って進めるための具体的な「3つのコツ」**を、分かりやすくステップバイステップで解説していきます。

この記事を読み終える頃には、頭の中のモヤモヤが晴れ、評価から計画立案までの流れがスムーズになり、「よし、このプロセスで進めてみよう!」と、明日からの臨床に自信を持って臨めるようになっているはずです。さあ、一緒に「迷わないST」への道を歩み始めましょう!

目次

なぜ迷う?評価・訓練計画でSTがつまずく理由

「評価も訓練計画も、なんだかいつも手探り状態…」その迷いや苦手意識は、どこから来るのでしょうか? あなたが臨床でつまずきやすいポイントには、いくつかの共通した原因があるかもしれません。まずは、その原因を客観的に見つめ直してみましょう。「あ、私もここで悩んでた!」と気づくことで、解決策がより明確になりますよ。

どこから手をつける?情報収集と評価選択の難しさ

新しい患者さんを担当する時、まず何から始めればいいのか、戸惑うことはありませんか?

  • 情報が多すぎる/少なすぎる: カルテには膨大な情報が書かれている一方で、STが必要とする情報(例えば、発症前の生活状況やコミュニケーション手段など)が不足していることもあります。何が重要で、何が不足しているのかを判断するのが難しいと感じるかもしれません。
  • 評価バッテリーが多すぎる: 失語症、構音障害、嚥下障害、高次脳機能障害…それぞれの領域に、たくさんの評価バッテリーが存在します。「この患者さんには、どの評価を、どの順番で実施するのが最適なんだろう?」と、選択肢の多さに迷ってしまう。
  • 時間的な制約: 限られた時間の中で、必要な情報を収集し、適切な評価を選んで実施しなければならない、というプレッシャーも、焦りや迷いを引き起こす一因です。

「とりあえず、いつも使っている評価をやっておこう…」と、思考停止に陥ってしまうこともあるかもしれませんね。

評価結果をどう読む?解釈と問題点抽出の壁

評価を実施し、点数や結果が出たとしても、それがゴールではありません。その結果が**「何を意味しているのか」を深く読み解き、患者さんが抱える「本質的な問題点」を抽出する**プロセスこそが重要であり、同時に難しい部分でもあります。

  • 点数だけを見てしまう: 「〇〇検査が△点だった」という事実だけでなく、「なぜその点数なのか?」「どの項目で特に difficultes があったのか?」「その背景にはどんな要因が考えられるか?」といった深い解釈が苦手だと感じる。
  • 複数の評価結果を結びつけられない: 失語症の評価、注意力の評価、嚥下の評価…個々の評価結果は分かっても、それらを統合して、「この患者さんの全体像」として捉えるのが難しい。点と点が線として繋がらない感覚。
  • 問題点の優先順位がつけられない: 評価によって、たくさんの問題点が見つかった場合、「どれから手をつければいいの?」「何が一番、この人の生活に影響しているんだろう?」と、優先順位をつけることに迷ってしまう。

この「解釈と統合」のステップでつまずくと、その後の訓練計画も的確なものになりません。

目標設定が曖昧に…個別性のある計画への戸惑い

評価に基づいて問題点が抽出できたら、次はリハビリテーションのゴールとなる「目標設定」です。しかし、ここでまた壁にぶつかることがあります。

  • 具体的でない目標: 「コミュニケーション能力を改善する」「安全に食事ができるようにする」といった、漠然とした目標を設定してしまい、具体的に何を目指すのかが曖昧になってしまう。
  • 患者さんの意向を反映できていない: STが良いと思う目標と、患者さん自身やご家族が望んでいる目標がズレていることがある。患者さんの「〇〇できるようになりたい」という思いを、うまく目標に落とし込めない。
  • 達成可能性の判断が難しい: 高すぎる目標を設定してしまったり、逆に低すぎる目標で可能性を狭めてしまったり…。その患者さんにとって、現実的で、かつ挑戦しがいのある目標を設定するのが難しい。

目標設定が曖昧だと、訓練計画も焦点がぼやけてしまい、効果的なリハビリテーションに繋がりにくくなります。

引き出しが少ない?訓練プログラム立案の限界感

目標が決まったら、いよいよ具体的な訓練プログラムの立案です。しかし、ここで「どんな訓練をすればいいんだろう…」と、アイデアが浮かばなかったり、いつも同じような内容になってしまったりすることはありませんか?

  • 訓練のレパートリー不足: 知っている訓練方法が少ないため、様々な患者さんの状態や目標に合わせて、最適なプログラムを組み立てることができない。
  • 根拠に基づいた選択ができない: 「なぜこの訓練を選ぶのか?」という明確な根拠(エビデンスや臨床経験)に基づいて選択できず、なんとなく、あるいは先輩に教わった方法をそのまま実施してしまう。
  • 個別性を反映できない: 患者さんの興味や関心、生活環境などを考慮に入れ、その人に合った、楽しく続けられるようなプログラムを工夫するのが難しい。
  • 効果判定と修正ができない: 実施した訓練の効果をどのように判定し、もし効果が見られない場合に、どのようにプログラムを修正していけばいいのか分からない。

訓練の「引き出し」が少ないと感じると、自信を持ってプログラムを提供できず、リハビリテーションの効果にも影響が出てしまう可能性があります。

これらの「つまずきポイント」を克服するためには、場当たり的な対応ではなく、一貫した**「臨床思考プロセス」**を身につけることが不可欠なのです。

迷いを自信に変える!臨床思考プロセス構築の【コツ1:情報収集と評価】

臨床思考プロセスの第一歩は、患者さんを深く理解するための「情報収集」と、その状態を客観的に把握するための「評価」です。「どこから手をつける?」という迷いを解消し、的確なスタートを切るためのコツを掴みましょう。ここを丁寧に行うことが、後のプロセスをスムーズに進めるための鍵となります。

患者さんの全体像を把握!多角的な情報収集の視点

評価を始める前に、まずは目の前の患者さんが「どんな人」で、「どんな状況」にあるのか、多角的な視点から情報を集め、全体像を把握することが重要です。

  • 医学的情報: 診断名、現病歴、既往歴、服薬状況、現在の全身状態、リスク(血圧、感染症など)などをカルテや医師・看護師からの情報で確認します。これが安全なリハビリ実施の大前提です。
  • ST関連情報: これまでのSTリハビリ歴、他院での評価結果、現在の主訴(コミュニケーション、嚥下などに関する悩み)などを把握します。
  • 生活・社会的情報: 家族構成、キーパーソン、発症前の生活状況(仕事、趣味、役割)、住環境、利用している社会資源、そして何より**「患者さんやご家族が何を望んでいるか」**を、面談などを通して丁寧に聞き取ります。この情報が、個別性のある目標設定や計画立案に不可欠です。
  • 他職種からの情報: 看護師さんから見た日常生活の様子、PT/OTさんから見た身体機能やADL状況、栄養士さんから見た栄養状態など、他職種からの情報は、患者さんを多角的に理解する上で非常に役立ちます。積極的に情報交換しましょう。

これらの情報をパズルのピースのように集め、組み合わせることで、患者さんの「全体像」が見えてきます。焦って評価に入る前に、まずはこの情報収集に時間をかけましょう。

目的意識を持つ!適切な評価バッテリー選択の考え方

集めた情報から、患者さんが抱えている可能性のある問題点について仮説を立てたら、次はその仮説を検証し、問題点を具体化するための「評価バッテリー」を選択します。数ある評価の中から、適切なものを選ぶための考え方を身につけましょう。

  • 「何を知りたいか?」を明確にする: 評価選択の最も重要な基準は、「この評価によって、自分は何を知りたいのか?」という目的意識です。例えば、「失語症の重症度を知りたい」「注意障害のどの側面(選択性、持続性など)に問題があるか知りたい」「嚥下のどの時期(準備期、口腔期など)に問題があるか知りたい」といったように、目的を具体的に設定します。
  • 仮説に基づいて選択する: 事前の情報収集で立てた仮説(例:「この方は右半球損傷だから、左半側空間無視があるかもしれない」)に基づいて、その仮説を検証できる評価(例:BIT行動性無視検査など)を選択します。
  • 標準化された評価を基本とする: まずは、信頼性と妥当性が確立されている標準化された評価バッテリー(例:SLTA、S-S法、MMSEなど)を基本として実施することを考えましょう。客観的な指標が得られ、他者との情報共有もしやすくなります。
  • 患者さんの状態に合わせて選択する: 患者さんの全身状態、疲労度、協力度なども考慮し、負担が少なく、かつ必要な情報が得られる評価を選びましょう。長時間の検査が難しい場合は、スクリーニング検査から始めるなどの工夫も必要です。
  • 必要なものに絞り込む: 「あれもこれも」とたくさんの評価を実施するのではなく、目的に合わせて、本当に必要な評価に絞り込むことも大切です。時間の効率化にも繋がります。

目的意識を持って評価を選択できるようになれば、「どの評価を使えばいいんだろう?」という迷いは格段に減るはずです。

効率的かつ正確に!評価実施のポイントと注意点

適切な評価バッテリーを選んだら、次はそれを正確に、そして効率的に実施することが求められます。評価の質を高めるためのポイントと注意点を確認しましょう。

  • マニュアルを熟読し、手順を遵守する: 標準化された評価は、実施手順が厳密に定められています。マニュアルをよく読み込み、指示の仕方や採点基準などを正確に理解し、手順通りに実施することが、信頼できる結果を得るための大前提です。自己流のアレンジは避けましょう。
  • 物品の準備を怠らない: 検査用紙、ストップウォッチ、筆記用具、必要な物品(絵カード、積み木など)は、事前に漏れなく準備しておきましょう。実施中に慌てて探すようでは、スムーズに進められません。
  • 静かで集中できる環境を整える: 評価は、できるだけ静かで、他の刺激が少ない環境で行うのが理想です。テレビを消してもらったり、ドアを閉めたりするなど、患者さんが集中できる環境を整えましょう。
  • 分かりやすい教示を心がける: 患者さんに課題を説明する際は、専門用語を避け、分かりやすく、簡潔な言葉で伝えましょう。必要であれば、デモンストレーションを見せるなどの工夫も有効です。理解度を確認しながら進めましょう。
  • 患者さんの状態を観察しながら進める: 評価中も、患者さんの表情、疲労度、集中力、反応などを注意深く観察しましょう。もし疲れている様子が見られたら、休憩を挟んだり、その日の評価を切り上げたりする柔軟な判断も必要です。安全性への配慮も忘れずに。
  • 記録は正確かつ客観的に: 評価結果(点数など)だけでなく、評価中の患者さんの反応や行動(誤反応の内容、かかった時間、工夫の様子など)も、客観的な事実として具体的に記録しておきましょう。これが、後の解釈の重要な手がかりとなります。

丁寧で正確な評価の実施が、信頼できるデータを得て、的確な臨床判断を下すための基礎となります。

観察力も重要!数値だけでは見えない情報の捉え方

標準化された評価バッテリーの結果(点数)は客観的な指標として重要ですが、それだけでは捉えきれない、患者さんの「生きた情報」もたくさんあります。評価中や、普段のコミュニケーション、リハビリ場面での**「観察」**を通して得られる情報は、数値と同じくらい、あるいはそれ以上に重要です。

  • コミュニケーション場面での観察:
    • 自発話の量や質、話題の選択、表情の豊かさ、視線の合わせ方、ジェスチャーの使用、会話の維持能力など。
    • 言葉の理解度(指示への反応、質問への応答など)。
    • 発話の明瞭度、声の大きさや質。
  • 食事場面での観察:
    • 食べる姿勢、集中度、食べるペース、一口量、食形態への反応。
    • 咀嚼の様子、送り込み、ムセや声の変化の有無、食後の口腔内残渣など。
  • 課題遂行中の行動観察:
    • 課題への取り組み方(意欲的か、消極的か)、集中力の持続、間違い方(どんなエラーが多いか)、工夫や自己修正の様子、疲労のサインなど。
  • 非言語的サインの観察: 表情、声のトーン、姿勢、しぐさなどから、感情や心理状態を読み取る。(前々回の記事「利用者との関係に悩むSTへ」も参照)

これらの観察から得られた「質的な情報」は、評価バッテリーの数値だけでは見えてこない、患者さんの個性や、生活上の具体的な困難さ、そして強み(ストレングス)を理解するための、貴重な手がかりとなります。常に観察のアンテナを張り巡らせることを意識しましょう。

点と線をつなげる!臨床思考プロセス構築の【コツ2:評価結果の解釈と統合】

情報収集と評価実施が終わったら、次はその結果を深く読み解き、バラバラに見える情報を繋ぎ合わせて、患者さんの全体像を明らかにする「解釈と統合」のステップです。「評価結果をどう読めば?」「問題点をどうまとめれば?」という壁を乗り越え、的確な臨床判断を下すための思考法を身につけましょう。ここが、臨床思考プロセスの中核とも言える部分です。

評価結果を客観的に分析!基準値やカットオフ値の意味

まずは、実施した評価バッテリーの結果(点数など)を、客観的な基準と照らし合わせて分析することから始めます。

  • 基準値(標準値)との比較: 年齢や学歴などを考慮した基準値と比較し、患者さんの得点がどのレベルにあるのか(平均範囲内か、平均より下かなど)を把握します。これにより、障害の有無や程度を客観的に判断する手がかりが得られます。
  • カットオフ値の理解: スクリーニング検査などで用いられるカットオフ値は、「障害の疑いがあるかないか」を判断するための一つの目安です。カットオフ値を下回った場合は、より詳細な評価が必要であることを示唆します。ただし、カットオフ値はあくまで目安であり、それだけで診断を下すことはできません。
  • 得点だけでなく、質的な分析も: 例えば失語症検査であれば、単に合計点を見るだけでなく、「呼称」「理解」「復唱」など、どの下位項目で特に得点が低いのか、どのような誤反応が多いのか、といった質的な分析を行うことが、問題の本質を理解する上で重要です。

評価マニュアルには、基準値やカットオフ値、結果の解釈に関する情報が記載されています。必ず参照し、客観的な分析を行いましょう。

複数の評価結果を統合!問題点の全体像を描く

個々の評価結果を分析したら、次はそれらの情報を統合し、患者さんが抱える問題点の全体像を描き出します。点と点を繋ぎ合わせ、線や面として捉えるプロセスです。

  • 関連性を見つける: 例えば、「注意障害の評価で点数が低い」ことと、「会話中に話が脱線しやすい」という観察結果、「食事中にムセやすい」という事実などが、どのように関連しているかを考えます。「注意力の低下が、会話の維持や、食事への集中の困難さに繋がり、結果として誤嚥リスクを高めているのかもしれない」といったように、複数の情報から因果関係や相互作用を推論します。
  • 一貫性・矛盾点を確認する: 異なる評価結果や観察情報が、一貫性のあるストーリーとして説明できるかを確認します。もし矛盾するような情報があれば、「なぜ矛盾が生じているのか?」をさらに深く考える必要があります(例:評価場面ではできるのに、実際の生活場面ではできないのはなぜか?)。
  • 全体像を構造化する: ICF(国際生活機能分類)などのフレームワークを活用して、心身機能・構造(例:失語、注意障害、嚥下機能低下)、活動(例:会話、食事、読書)、参加(例:仕事、趣味、家族との交流)、環境因子、個人因子といった要素に情報を整理し、それぞれの関連性を図式化してみるのも有効です。これにより、問題点の全体像が視覚的に捉えやすくなります。

この統合プロセスを通して、単なる症状のリストアップではなく、患者さんが生活を送る上で、何が本質的な障壁となっているのかが見えてきます。

なぜそうなっている?背景要因を探る推論力

問題点の全体像が見えてきたら、さらに一歩踏み込んで、「なぜ、そのような問題が生じているのか?」という背景要因を探る臨床推論を行います。

  • 医学的要因の考慮: 原因疾患(脳卒中、神経難病など)の病態生理が、どのように現在の症状に影響しているかを考えます。損傷部位と症状の関連性などを考慮します。
  • 心理的要因の考慮: 不安、抑うつ、意欲低下、性格傾向などが、リハビリへの取り組みやコミュニケーションにどのように影響しているかを考えます。
  • 環境的要因の考慮: 住環境(段差、騒音など)、人的環境(家族の介護力、キーパーソンの存在)、利用可能な社会資源などが、活動や参加を促進または阻害していないかを考えます。
  • 過去の経験や学習歴: これまでの生活歴や学習経験が、現在の能力や課題への取り組み方に影響している可能性も考慮します。

「この嚥下障害は、単に筋力の問題だけでなく、うつによる食欲不振も影響しているかもしれない」「コミュニケーションがうまくいかないのは、失語症だけでなく、難聴や、家族との関係性も関係しているのではないか?」といったように、多角的な視点から背景要因を探ることで、より本質的な問題解決に繋がるアプローチが見えてきます。

強み(ストレングス)にも着目!リハビリの可能性を広げる

評価というと、どうしても「できないこと」「問題点」ばかりに目が行きがちですが、それと同じくらい**「できること」「強み(ストレングス)」**に着目することも重要です。

  • 維持されている能力: 障害があっても、維持されている能力や得意なことは何でしょうか?(例:失語症だけど、書字は比較的保たれている。麻痺はあるけど、利き手は問題なく使える。)
  • 意欲や関心: 患者さん自身が「やりたい」と思っていること、興味を持っていることは何でしょうか?(例:孫と話したい、趣味の編み物を再開したい。)
  • 良好なサポート: 協力的な家族がいる、利用できる社会資源がある、といった環境的な強みも重要です。
  • 性格的な強み: 粘り強い、ユーモアがある、前向きである、といった性格的な側面も、リハビリを進める上での大きな力になります。

これらの「強み」は、リハビリテーションの目標設定や、訓練プログラムを考える上で、非常に重要な資源となります。問題点だけでなく、ポジティブな側面にも目を向けることで、リハビリの可能性は大きく広がり、患者さんのモチベーションを高めることにも繋がります。

未来を描く!臨床思考プロセス構築の【コツ3:目標設定と計画立案】

患者さんの全体像、問題点、そして強みを把握したら、いよいよリハビリテーションの具体的な方向性を決める「目標設定」と「計画立案」のステップです。「どんなゴールを目指す?」「そのために、どんな道筋を立てる?」この最終段階を的確に行うことで、あなたの臨床はより効果的で、根拠のあるものになります。迷わず未来を描くためのコツを掴みましょう。

SMARTな目標設定!具体的で達成可能なゴールとは?

効果的なリハビリテーションのためには、具体的で測定可能な目標を設定することが重要です。目標設定のフレームワークとしてよく用いられるのが**「SMART」**の原則です。

  • S (Specific): 具体的であるか?
    • 悪い例:「コミュニケーション能力を改善する」
    • 良い例:「家族との日常会話で、5分間、話題を維持して意思疎通ができるようになる」
  • M (Measurable): 測定可能であるか?
    • 悪い例:「もっと上手に話せるようになる」
    • 良い例:「〇〇(評価名)の呼称課題で、正答率を80%以上にする」「1分間に△△語以上の単語を発話できるようになる」
  • A (Achievable): 達成可能であるか?
    • 患者さんの現在の能力、予後予測、利用可能な資源などを考慮し、現実的に達成可能な目標を設定します。高すぎる目標は挫折に繋がります。
  • R (Relevant): 患者さんにとって意味・関連があるか?
    • 設定した目標が、患者さん自身の生活や希望と関連しており、達成することがQOL向上に繋がるものであることが重要です。STの自己満足であってはいけません。
  • T (Time-bound): 期限が明確であるか?
    • 「いつまでに」達成するのか、具体的な期限(例:「3ヶ月後までに」「退院までに」)を設定します。期限があることで、計画性が生まれ、モチベーションも維持しやすくなります。

このSMARTの原則に沿って目標を立てることで、目標が具体的になり、進捗状況も評価しやすくなります。短期目標(数週間?1ヶ月程度)と長期目標(数ヶ月?退院時など)を設定し、段階的に達成を目指すように計画すると、より効果的です。

患者さんの意向を尊重!協同的な目標設定の重要性

目標は、STが一方的に決めるものではありません。患者さん自身や、そのご家族の「こうなりたい」「これができるようになりたい」という意向を最大限に尊重し、**一緒に目標を設定していく「協同的なアプローチ」**が非常に重要です。

  • 患者さんの「希望」を丁寧に聞き取る: 「退院したら、何が一番したいですか?」「どんなことができるようになったら嬉しいですか?」といった質問を通して、患者さんの本当の願いや価値観を引き出しましょう。
  • 目標を共有し、合意を得る: STが専門的な視点から考えた目標案を、患者さんやご家族に分かりやすく説明し、「この目標に向かって、一緒に頑張っていきませんか?」と提案し、合意を得るプロセスが大切です。もし、意向が異なる場合は、その理由を丁寧に聞き、調整を図ります。
  • 動機づけを高める: 患者さん自身が「自分のための目標だ」と納得し、主体的にリハビリに取り組めるように、目標設定の段階から関わってもらうことが、モチベーションを高める上で非常に効果的です。

患者さんを「リハビリの受け手」としてではなく、「目標達成に向けたパートナー」として捉え、一緒に未来を描いていく姿勢が、信頼関係を深め、リハビリの効果を高めることに繋がります。

根拠に基づいた訓練選択!エビデンスと個別性の両立

目標が設定されたら、その目標を達成するための具体的な訓練プログラムを選択・立案します。ここで重要なのは、**「科学的根拠(エビデンス)」「個別性」**の両方を考慮することです。

  • エビデンスを意識する: なぜその訓練が目標達成に有効なのか、その根拠を意識しましょう。最新のガイドラインや研究論文などを参考に、効果が実証されている、あるいは推奨されているアプローチを積極的に取り入れるように努めます。経験則だけに頼るのではなく、常に知識をアップデートしていく姿勢が求められます。
  • 個別性を最大限に活かす: エビデンスは重要ですが、全ての患者さんに同じ方法が通用するわけではありません。評価で明らかになった患者さん個々の問題点、そして強み(ストレングス)、さらには興味・関心、生活環境、性格などを考慮に入れ、訓練内容、難易度、実施方法などを個別化(オーダーメイド)していく必要があります。
  • 訓練の「なぜ?」を説明できるように: 自分が選択した訓練について、「なぜこの訓練を行うのか?」「どのような効果が期待できるのか?」を、患者さんや他職種に分かりやすく説明できるようにしておくことも大切です。

根拠に基づきつつ、一人ひとりに合わせて最適化された訓練プログラムこそが、最も効果的なリハビリテーションと言えるでしょう。

定期的な再評価と計画修正!柔軟な思考を持つ

一度立てた訓練計画が、ずっと有効とは限りません。患者さんの状態は日々変化しますし、訓練の効果も思うように出ないこともあります。そのため、定期的に再評価を行い、その結果に基づいて計画を柔軟に修正していくことが不可欠です。

  • 再評価のタイミング: 短期目標の期限が来た時、患者さんの状態に変化が見られた時、訓練効果が停滞していると感じた時など、適切なタイミングで再評価を実施します。
  • 効果判定: 実施した訓練が、目標達成に向けて効果を発揮しているか、客観的な指標(評価結果の変化など)と主観的な情報(患者さんの実感など)の両面から判定します。
  • 計画の修正: 効果が見られている場合は、さらに目標を高めたり、次のステップに進んだりします。もし効果が見られない場合は、「なぜ効果が出ないのか?」を分析し、訓練内容、頻度、難易度、あるいは目標設定そのものを見直す必要があります。
  • トライ&エラーを恐れない: 最初から完璧な計画を立てられるわけではありません。「試してみて、ダメなら変える」という、トライ&エラーを繰り返しながら、最適なアプローチを見つけていく柔軟な思考を持つことが大切です。

計画は「立てて終わり」ではなく、「常に改善していくもの」と捉え、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を回していく意識を持ちましょう。

迷わないSTへ!自信を持って臨床を進めるために

言語聴覚士としての日々の臨床、特に「評価」と「訓練計画の立案」というプロセスには、多くの迷いや難しさが伴います。「これでいいのかな?」という不安は、成長しようと努力しているからこそ生まれるものです。

しかし、この記事で紹介した臨床思考プロセス構築の3つのコツを意識し、実践していくことで、あなたの迷いは着実に自信へと変わっていくはずです。

【コツ1:情報収集と評価】 多角的な視点で患者さんの全体像を捉え、目的意識を持って適切な評価を選択・実施し、数値だけでなく観察からも情報を得る。

【コツ2:評価結果の解釈と統合】 客観的な分析に基づき、複数の情報を繋ぎ合わせ、問題点の背景を探り、強みにも着目して全体像を描く。

【コツ3:目標設定と計画立案】 SMARTな原則と患者さんの意向に基づき、具体的で意味のある目標を設定し、エビデンスと個別性を両立させた計画を立て、柔軟に見直していく。

この思考プロセスは、一朝一夕に身につくものではありません。日々の臨床の中で、意識的に繰り返しトレーニングしていくことが何よりも大切です。焦らず、一つ一つのステップを丁寧に踏んでいきましょう。

そして、もしあなたが、 「一人でこのプロセスを実践していくのは、やっぱり不安…」 「もっと効率的に、臨床思考力を高められる環境はないかな?」 「経験豊富な先輩から、直接指導を受けながら学びたい」

と感じているなら、それは決して甘えではありません。より良い学びの環境を求めることは、あなたの成長意欲の表れです。

そんな時は、キャリアの専門家に相談してみることを考えてみてください。リハビリ職のキャリアに精通したアドバイザーは、

  • あなたの現在のスキルレベルや、目指したい方向性を踏まえ、教育体制が充実している職場や、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)でしっかりと指導を受けられる環境、あるいは特定の分野の経験を豊富に積める施設などの求人情報(非公開求人を含む)を提供してくれます。
  • あなたのキャリアプランについて、客観的な視点からアドバイスをし、スキルアップへの具体的な道筋を一緒に考えてくれます。

無料相談などを活用して、あなたが臨床で迷わず、自信を持って患者さんと向き合えるようになるための最適な環境を探す、という選択肢も、ぜひ検討してみてください。

迷いながらも学び続け、考え続けるあなたなら、必ず「頼られるST」へと成長できます。自信を持って、明日からの臨床に臨んでください。応援しています!

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