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【利用者との関係に悩むSTへ】心の距離を縮める!信頼される傾聴と共感の深め方

「一生懸命リハビリしてるけど、なんだか利用者さんとの距離が縮まらない…」 「うまくコミュニケーションが取れなくて、本音を引き出せない気がする…」 「ご家族から『先生には話しにくい』って思われてるかも…」

言語聴覚士(ST)として、日々利用者さんやそのご家族と向き合う中で、そんな風に関係構築の難しさを感じ、悩んでしまうことはありませんか?

私たちは、単に訓練を提供するだけでなく、利用者さんの不安や悩みに寄り添い、信頼関係を築くことが、リハビリテーションの効果を最大限に引き出す上で、とても重要だと知っています。頭では分かっているけれど、なかなかうまくいかない…。

特に、失語症や高次脳機能障害、認知症など、コミュニケーションに課題を抱える利用者さんや、病気や障害によって心を閉ざしがちな方、あるいは世代や価値観が大きく異なる方との関わりには、特別な配慮やスキルが求められますよね。

「どうすれば、もっと心を開いてもらえるんだろう?」 「私の想い、ちゃんと伝わっているのかな?」 「信頼されるSTになるためには、何が足りないんだろう?」

この記事では、そんなあなたの悩みに寄り添い、利用者さんやご家族との「心の距離」をぐっと縮め、深い信頼関係を築くための鍵となる**「傾聴」「共感」**のスキルについて、具体的な方法と考え方を分かりやすく解説していきます。

明日からすぐに実践できるヒントが満載です。この記事を読み終える頃には、コミュニケーションへの苦手意識が和らぎ、自信を持って利用者さんに寄り添い、「あなたでよかった」と言われるSTになるための道筋が見えているはずです。さあ、心と心をつなぐコミュニケーション術を、一緒に学んでいきましょう!

目次

なぜか心が通わない…STが利用者との関係で感じる壁

「信頼関係が大切」と分かっていても、なぜかうまくいかない…。その背景には、言語聴覚士が利用者さんとの関係構築において、特有の難しさや「壁」を感じやすい要因があります。まずは、あなたが感じているかもしれない、その「壁」の正体を探ってみましょう。原因が分かれば、乗り越えるための具体的なアプローチが見えてきますよ。

「うまく話せない」「反応が薄い」コミュニケーションの難しさ

言語聴覚士が関わる利用者さんの中には、失語症、構音障害、聴覚障害、認知症など、様々な理由でコミュニケーションそのものに困難を抱えている方が多くいらっしゃいます。

「言葉がなかなか出てこなくて、何を伝えたいのか汲み取れない…」 「発音が不明瞭で、聞き取るのが難しい…」 「話しかけても、表情が変わらなかったり、反応が薄かったりすると、どう関わればいいか分からなくなる…」 「高次脳機能障害の影響で、話が噛み合わないことがある…」

こうしたコミュニケーションの難しさは、STにとって日常的な課題ですが、同時に「心が通わない」と感じてしまう大きな要因にもなり得ます。一生懸命関わろうとしても、相手の反応が見えにくいと、「私の気持ち、伝わっているのかな?」と不安になったり、時には無力感を覚えてしまったりすることもあるでしょう。

疾患や障害による心理的な影響への理解不足

病気や障害は、単に身体機能だけでなく、人の心にも大きな影響を与えます。

  • 喪失感や不安: これまでできていたことができなくなったことへの喪失感、将来への不安、病気や障害に対する恐怖など、多くの利用者さんは複雑な感情を抱えています。
  • 意欲の低下: 身体的な辛さや、リハビリへの効果が見えにくいことから、意欲を失ってしまう方もいます。
  • プライドや羞恥心: 人に頼ることへの抵抗感や、できないことを見られることへの羞恥心から、本音を隠してしまうこともあります。
  • 認知機能の変化: 認知症や高次脳機能障害により、感情のコントロールが難しくなったり、状況理解が困難になったりすることもあります。

こうした心理的な側面への理解や配慮が足りないと、良かれと思ってかけた言葉が相手を傷つけてしまったり、リハビリへの意欲を削いでしまったりする可能性があります。「なんで分かってくれないんだ!」と、利用者さんとの間に溝が生まれてしまう原因にもなりかねません。

忙しさの中で「作業」になってしまう関わり

日々の業務に追われる中で、どうしても時間に余裕がなくなり、一人ひとりの利用者さんとじっくり向き合う時間を確保するのが難しい…という現実もありますよね。

「次の患者さんが待っているから、早く訓練を終わらせないと…」 「記録も書かないといけないし、ゆっくり話を聞いている時間がない…」

そんな風に、効率を優先するあまり、リハビリが単なる「作業」になってしまい、心が伴わない関わりになってしまうことはありませんか?

利用者さんは、STの忙しさや、気持ちが自分に向いていないことを敏感に感じ取ります。「流れ作業のように扱われている」「私の話、ちゃんと聞いてもらえていないな」と感じさせてしまうと、信頼関係を築くことは難しくなってしまいます。

世代や価値観の違いによるギャップ

言語聴覚士は比較的若い世代が多い一方で、関わる利用者さんは高齢者の方が多い、というケースも少なくありません。そこには、世代間のギャップや、生きてきた時代背景による価値観の違いが存在します。

「昔の苦労話ばかりされて、どう返せばいいか分からない…」 「私たちの世代の常識が、利用者さんには通じないことがある…」 「良かれと思って提案したことが、相手の価値観に合わなかった…」

言葉遣いや、話題の選び方、距離感の取り方など、世代間のギャップがコミュニケーションの障壁となることもあります。相手の価値観を尊重せず、自分の「当たり前」を押し付けてしまうと、関係性はこじれてしまいます。

これらの「壁」を乗り越え、利用者さんとの間に信頼という橋を架けるためには、特別なコミュニケーションスキルが必要となるのです。

信頼関係の土台づくり:傾聴で相手の世界を理解する

利用者さんとの心の距離を縮め、信頼関係を築くための第一歩は、**相手の話を深く「聴く」こと、すなわち「傾聴」**です。「聞く」と「聴く」は違います。ただ音として耳に入れるのではなく、相手の言葉はもちろん、その奥にある感情や想いまで、注意深く、心を込めて受け止める。それが傾聴です。ここでは、信頼関係の土台となる傾聴の基本的な姿勢とテクニックを学びましょう。

ただ聞くだけじゃない!「積極的傾聴」の基本姿勢

傾聴は、受け身で聞いているだけではありません。相手が安心して話せるように、積極的に関わっていく姿勢が大切です。これを**「積極的傾聴」**と言います。

  • 関心を持って聴く: 「あなたの話をもっと聞きたい」という純粋な好奇心と関心を持って、相手に注意を向けます。スマホをいじりながら聞いたり、他のことを考えながら聞いたりするのはNGです。
  • 受容的な態度で聴く: 相手の話を、良い・悪いと評価したり、途中で否定したりせずに、まずは「そういう考えもあるんですね」「そう感じていらっしゃるんですね」と、ありのまま受け止める姿勢が重要です。安心感が生まれます。
  • 共感的に聴く: 相手の感情に寄り添い、「そのお気持ち、よく分かります」「それはお辛かったですね」と、相手の立場になって理解しようと努めます。(共感については次の章で詳しく解説します)
  • 視線を合わせる: 相手の目を見て話を聞くことで、「あなたの話を真剣に聞いていますよ」というメッセージが伝わります。(ただし、文化や相手によっては、じっと見つめられるのが苦手な場合もあるので配慮は必要です)

この基本姿勢を意識するだけで、相手は「この人は、私の話をちゃんと聞いてくれる」と感じ、心を開きやすくなります。

言葉にならない想いもキャッチ!非言語的サインの読み取り方

コミュニケーションは、言葉だけで成り立っているわけではありません。むしろ、**表情、声のトーン、視線、姿勢、しぐさといった「非言語的サイン(ノンバーバル・コミュニケーション)」**の方が、多くの情報を伝えていると言われています。

  • 表情: 笑顔、曇った表情、険しい顔つきなど、相手の感情を読み取る上で最も重要な手がかりです。言葉では「大丈夫」と言っていても、表情が辛そうであれば、何かを抱えているのかもしれません。
  • 声のトーン・大きさ・速さ: 弾んだ声か、沈んだ声か。大きい声か、小さい声か。早口か、ゆっくりか。声の調子から、相手の感情(喜び、悲しみ、怒り、不安など)や、話している内容への自信の度合いなどを推測できます。
  • 視線: 目が合っているか、そらしているか。どこを見ているか。視線からも、相手の関心度や心理状態を読み取ることができます。
  • 姿勢・しぐさ: 前のめりになって聞いているか、腕組みをして閉じこもっているか。落ち着きなく手足を動かしているか。姿勢やしぐさも、相手の心理状態を表すサインとなります。

言葉の内容と、これらの非言語的サインに矛盾がある場合(例:口では「平気」と言っているが、表情は暗い)、非言語的サインの方が、より本音に近いことが多いと言われています。言葉だけに囚われず、相手の全身から発せられるサインに注意深く意識を向けることで、言葉の裏にある本当の想いをキャッチしやすくなります。

相手の話を促す「あいづち」と「うなずき」の効果

相手が話しやすい雰囲気を作る上で、**効果的な「あいづち」と「うなずき」**は非常に重要です。これらは、「あなたの話をちゃんと聞いていますよ」「もっと聞きたいですよ」というメッセージを相手に伝える役割を果たします。

  • 適切なタイミングとバリエーション: 「はい」「ええ」「なるほど」「そうなんですね」といった基本的なあいづちを、相手の話の切れ目や、感情が動いたと思われるタイミングで入れましょう。単調にならないように、声のトーンや表情も合わせて変化させると、より効果的です。
  • うなずき: 相手の話に合わせて、ゆっくりと、あるいは深くうなずくことで、「理解していますよ」「共感していますよ」という気持ちを伝えることができます。
  • 繰り返し(反復): 相手の言った言葉の一部を繰り返す(例:「〇〇で大変だったんですね」)ことで、「ちゃんと聞いていますよ」という確認になり、相手はさらに話しやすくなります。
  • 要約: 話が一区切りついたところで、「つまり、〇〇ということですね?」と内容を要約して確認することで、理解度を示すと共に、認識のズレを防ぐことができます。

ただし、あいづちやうなずきが多すぎたり、タイミングが悪かったりすると、かえって相手の話を遮ってしまったり、不自然な印象を与えたりすることもあるので注意が必要です。相手の反応を見ながら、自然に行うことを心がけましょう。

沈黙も怖くない!相手のペースに合わせる待つ姿勢

会話の中に「沈黙」が訪れると、なんだか気まずくて、つい何か話さなきゃ、と焦ってしまうことはありませんか? でも、沈黙は必ずしも悪いものではありません

  • 考える時間: 相手が、次に何を話そうか考えを巡らせている時間かもしれません。
  • 感情を整理する時間: 辛い経験などを話している場合、感情を整理するために沈黙が必要なこともあります。
  • 言葉を探している時間: 失語症の方など、言葉を思い出すのに時間がかかっている場合もあります。

そんな時、焦ってこちらから言葉を挟んでしまうと、相手の思考や感情の流れを断ち切ってしまう可能性があります。

沈黙を恐れずに、相手のペースに合わせて「待つ」姿勢も、傾聴の重要な要素です。穏やかな表情で、相手が話し始めるのを待ちましょう。その「間」が、かえって相手に安心感を与え、深い話を引き出すきっかけになることもあります。

もちろん、明らかに困っている様子であれば、「何かお手伝いできることはありますか?」と声をかける配慮は必要ですが、基本的には、相手の沈黙を尊重する姿勢を持ちましょう。

心の距離を縮める魔法:共感で安心感と繋がりを生む

相手の話を深く聴く「傾聴」と並んで、信頼関係を築く上で欠かせないのが「共感」です。相手の気持ちに寄り添い、「あなたのことを理解していますよ」と伝える共感的な関わりは、まるで魔法のように相手の心を開き、安心感と強い繋がりを生み出します。ここでは、共感の本当の意味と、心を近づけるための具体的な方法について掘り下げていきましょう。

「わかるよ」だけじゃない!共感の本当の意味とは?

「共感」というと、「私もそう思う!」「わかるわかる!」といった「同感(同意)」と混同されがちですが、厳密には少し異なります。

共感とは、相手の感情や考え方を、あたかも自分自身のことのように感じ、理解しようと努めることです。必ずしも相手の意見に「同意」する必要はありません。相手が置かれている状況や、その背景にある感情を想像し、「あなたは今、こういう風に感じているんですね」「そういうお気持ちなんですね」と、相手の内的世界を理解しようとする姿勢そのものが共感なのです。

例えば、リハビリに意欲が持てない利用者さんに対して、「頑張らなきゃダメですよ!」と正論をぶつけるのではなく、「なかなかやる気が出ない、というお気持ちなんですね。何か理由があるのでしょうか?」と、まずはその気持ちを受け止め、理解しようとすることが共感的な関わりです。

この「理解しようとする姿勢」が、相手に「この人は私のことを分かってくれようとしている」という安心感を与えるのです。

相手の感情に寄り添う言葉かけの具体例

相手の感情に寄り添い、共感を伝えるためには、どのような言葉かけが効果的なのでしょうか? いくつか具体例を挙げながら考えてみましょう。

  • 感情を言葉にして返す(感情の反映):
    • 例:「(辛い経験を話された時)それは、本当にお辛かったですね…」
    • 例:「(リハビリがうまくいかず落ち込んでいる時)思うようにいかなくて、悔しい気持ちなんですね。」
    • 相手が言葉にしていない感情を、こちらが代弁してあげることで、「私の気持ちを分かってくれた」と感じてもらえます。
  • 相手の状況や立場を理解していることを示す:
    • 例:「〇〇さんも、ご家族のことで色々とご心配ですよね。」
    • 例:「お仕事とリハビリの両立、本当に大変だと思います。」
    • 相手が置かれている状況への理解を示すことで、連帯感が生まれます。
  • 肯定的な側面や努力を認める言葉:
    • 例:「そんな大変な中でも、毎日リハビリ頑張っていらっしゃって、本当にすごいです。」
    • 例:「〇〇さんが、ご自身の力でここまで回復されたのは、素晴らしいことですよ。」
    • 相手の頑張りや強みを認め、伝えることで、自己肯定感を高め、前向きな気持ちを引き出すことができます。
  • ペーシング(相手の言葉やトーンに合わせる): 相手がゆっくり話すならこちらもゆっくり話す、相手が悲しそうなトーンならこちらも落ち着いたトーンで話す、といったように、相手のペースや雰囲気に合わせることも、無意識的な共感のメッセージとなります。

これらの言葉かけは、あくまで一例です。大切なのは、マニュアル的に使うのではなく、その場の状況や相手の様子に合わせて、あなたの心からの言葉で伝えることです。

自分の感情との向き合い方(感情移入しすぎないために)

共感的に関わることは大切ですが、一方で、相手の感情に深く「感情移入」しすぎて、自分自身が辛くなってしまわないように注意することも必要です。特に、STは感受性が豊かな方が多いので、意識的に自分の感情と向き合うことが大切です。

  • 自分と相手の境界線を意識する: 「相手の感情は相手のもの、自分の感情は自分のもの」という境界線を意識しましょう。相手の辛さに寄り添うことは大切ですが、それを全て自分のことのように背負い込む必要はありません。
  • 客観的な視点を保つ: 共感しつつも、専門職としての客観的な視点は失わないようにしましょう。感情に流されず、冷静に状況を分析し、適切な支援を考えることが求められます。
  • セルフケアを大切にする: 辛い話を聞いた後などは、意識的に気分転換をしたり、信頼できる同僚や上司に話を聞いてもらったりして、自分の感情をケアする時間を作りましょう。ストレスを溜め込まないことが、長く健康に働き続けるためには不可欠です。
  • スーパービジョンや研修を活用する: 自分一人で感情のコントロールが難しいと感じる場合は、経験豊富な先輩STからのスーパービジョンを受けたり、コミュニケーションやメンタルヘルスに関する研修に参加したりするのも有効です。

共感は、相手を深く理解するための強力なツールですが、自分自身を守るためのバランス感覚も同時に養っていくことが大切です。

共感がリハビリ意欲を引き出すメカニズム

なぜ、共感的な関わりが、利用者さんのリハビリテーションへの意欲を引き出すことに繋がるのでしょうか?

  • 安心感と信頼感の醸成: 「この人は私のことを分かってくれる」という安心感と信頼感は、利用者さんが心を開き、リハビリに前向きに取り組むための土台となります。
  • 自己肯定感の向上: 自分の気持ちや頑張りを認めてもらうことで、利用者さんの自己肯定感が高まります。「自分はダメじゃないんだ」「頑張ってみようかな」という気持ちが芽生えやすくなります。
  • ラポール(信頼関係)の形成: 共感的な関わりを通して築かれた良好な関係性(ラポール)は、STからの提案やアドバイスを受け入れやすくさせます。
  • 内発的動機づけの促進: 一方的に「頑張れ」と言われるよりも、自分の気持ちを理解してもらった上で、「一緒に頑張りましょう」と言われる方が、「自分のために頑張ろう」という内側からの意欲(内発的動機づけ)が湧きやすくなります。

つまり、共感は、単に相手を慰めるだけでなく、リハビリテーションの効果そのものを高めるための、非常に重要な要素なのです。

実践!明日から使える傾聴・共感スキルアップ術

傾聴と共感の重要性は分かったけれど、「じゃあ、具体的にどうやってスキルアップすればいいの?」と思いますよね。知識として理解するだけでなく、日々の実践を通して磨いていくことが大切です。ここでは、忙しいあなたでも明日からすぐに取り組める、傾聴・共感スキルを高めるための実践的なトレーニング方法を4つご紹介します!

忙しい中でもできる!意識すべき「ながら聴き」の改善

忙しい業務の中では、つい何か他の作業をしながら利用者さんの話を聞いてしまう「ながら聴き」になってしまいがちです。まずは、この無意識の習慣を改善することから始めましょう。

  • 「手と目」を相手に向ける: 利用者さんと話す時は、たとえ短い時間でも、できる限りカルテやPCから顔を上げ、手元の作業を一旦止めて、相手に体を向け、視線を合わせるように意識しましょう。「ちゃんとあなたに向き合っていますよ」という姿勢が伝わります。
  • 5分でも「集中聴き」タイムを作る: 全ての時間で完璧に傾聴するのは難しくても、「この5分間だけは、他のことは考えずに、この方の話に集中しよう」と、意識的に「集中聴き」タイムを作ってみましょう。短い時間でも、質の高い関わりができます。
  • 聞き取れなかったら正直に聞き返す: 「ながら聴き」をしていて、相手の話を聞き逃してしまったら、ごまかさずに「すみません、もう一度お願いできますか?」と正直に聞き返しましょう。適当に相槌を打つよりも、よほど誠実な態度です。

まずは、「ながら聴き」をしている自分に気づき、少しずつでも意識的に改善していくことが、傾聴スキル向上の第一歩です。

質問力を磨く!オープン・クローズドクエスチョンの使い分け

相手の話を深掘りしたり、具体的な情報を引き出したりするためには、「質問力」を磨くことも重要です。質問には大きく分けて2種類あります。状況に応じて使い分けることで、より効果的なコミュニケーションが可能になります。

  • クローズドクエスチョン(閉じた質問): 「はい」「いいえ」で答えられる質問や、具体的な事実を確認する質問です。(例:「朝食はパンを食べましたか?」「痛みはありますか?」)
    • メリット: 短時間で具体的な情報を得られる。話すのが苦手な相手でも答えやすい。
    • デメリット: 会話が広がりにくい。相手の考えや感情を引き出しにくい。
    • 効果的な使い方: 初期の情報収集、事実確認、話の焦点を絞りたい時など。
  • オープンクエスチョン(開かれた質問): 相手が自由に答えられる、”5W1H”(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を使った質問です。(例:「今日の体調はいかがですか?」「リハビリについて、何か気になっていることはありますか?」「その時、どんなお気持ちでしたか?」)
    • メリット: 相手の考えや感情、価値観などを深く知ることができる。会話が広がりやすい。
    • デメリット: 答えるのに時間がかかる場合がある。話が脱線しやすいこともある。
    • 効果的な使い方: 相手の思いを引き出したい時、じっくり話を聞きたい時、関係性を深めたい時など。

クローズドクエスチョンで基本的な情報を得てから、オープンクエスチョンで話を深掘りしていく、といったように、状況に合わせて使い分ける練習をしてみましょう。

自分のコミュニケーションを客観的に振り返る習慣

自分のコミュニケーションの癖や改善点は、自分ではなかなか気づきにくいものです。日々の関わりを客観的に振り返る習慣をつけましょう。

  • 一日の終わりにセルフチェック: 「今日の〇〇さんとの会話、ちゃんと傾聴できていたかな?」「△△さんへの説明、分かりやすかったかな?」「もっと共感的な言葉かけができた場面はなかったかな?」など、具体的な場面を思い出し、自分のコミュニケーションを振り返ってみましょう。
  • うまくいった点・改善点を書き出す: 良かった点と、次回改善したい点を具体的に書き出してみると、課題が明確になり、次の行動に繋がりやすくなります。
  • 同僚や先輩にフィードバックを求める: 勇気がいるかもしれませんが、「私の患者さんへの声かけ、何か気になる点はありませんか?」「今日のカンファレンスでの私の発言、分かりにくくなかったですか?」など、信頼できる同僚や先輩に、客観的な意見やアドバイスを求めてみるのも非常に有効です。

定期的に自分のコミュニケーションを振り返ることで、無意識の癖に気づき、意識的に改善していくことができます。

ロールプレイングで実践練習!同僚との学び合い

知識として理解するだけでなく、実際にやってみることがスキル習得への一番の近道です。職場の同僚などと**ロールプレイング(役割演技)**を行い、実践的な練習をしてみましょう。

  • 具体的な場面設定: 「リハビリに意欲がない利用者さんへの声かけ」「ご家族からのクレーム対応」「多職種カンファレンスでの意見発表」など、具体的な場面を設定します。
  • 役割を決めて演じる: ST役、利用者役、家族役、他職種役などを決め、それぞれの役になりきって会話をしてみます。
  • フィードバックをし合う: ロールプレイングが終わったら、お互いの良かった点や改善点について、具体的なフィードバックをし合いましょう。「〇〇さんの、あの声かけがすごく安心感があった」「△△の場面で、もう少し相手の気持ちを確認する質問があると良かったかも」など、客観的な意見交換が学びを深めます。
  • 繰り返し練習する: 一度だけでなく、様々な場面設定で繰り返し練習することで、様々な状況に対応できる応用力が身についていきます。

職場の勉強会などで、定期的にロールプレイングを取り入れるのも良いでしょう。楽しみながら、実践的なコミュニケーションスキルを高めることができます。

信頼の絆がリハビリを変える!心に寄り添うSTへ

言語聴覚士として、私たちが日々向き合うのは、言葉や飲み込みの機能だけではありません。その奥にある、利用者さん一人ひとりの「心」です。

この記事を通して、利用者さんやご家族との間に深い信頼関係を築く上で、「傾聴」と「共感」がいかに重要であるか、そして、それらを具体的なスキルとして高めていくための方法を学んできました。

相手の話に真摯に耳を傾け、言葉にならない想いをも汲み取ろうとする**「傾聴」。 相手の感情に寄り添い、その世界を理解しようと努める「共感」**。

これらのスキルは、決して特別な才能ではなく、日々の意識と実践によって、誰でも磨いていくことができるものです。

忙しい業務の中でも、

  • 「ながら聴き」を少しでも減らす意識を持つ。
  • 相手に合わせた質問を投げかける。
  • 自分のコミュニケーションを振り返る。
  • 時には、仲間と練習してみる。

そんな小さな努力の積み重ねが、あなたのコミュニケーション能力を確実に向上させ、利用者さんとの「心の距離」を縮めていきます。

そして、築かれた信頼の絆は、利用者さんのリハビリテーションへの意欲を引き出し、私たちが提供する支援の効果を何倍にも高めてくれるはずです。「この人になら、安心して任せられる」「あなたと話していると、元気が出る」…そんな風に思ってもらえることこそ、STとしての大きな喜びではないでしょうか。

もし、あなたが「もっとコミュニケーションスキルを高めたい」「利用者さんとの関係構築について、専門的なアドバイスが欲しい」と感じているなら、研修会に参加したり、経験豊富な先輩に相談したりすることに加えて、キャリアの専門家に相談してみるのも一つの方法です。特にリハビリ職に特化したキャリアサポートでは、コミュニケーションスキル向上に関する研修情報や、より利用者さんと深く関われる職場環境(例えば、一人ひとりに時間をかけられる職場など)の情報を提供してくれる可能性もあります。無料相談などを活用して、視野を広げてみるのも良いでしょう。

今日から、あなたも「心に寄り添うST」へ。 傾聴と共感の力を信じて、利用者さんとの温かい繋がりを大切に、より豊かで実りあるリハビリテーションを実践していきましょう。あなたの優しい関わりが、誰かの希望の光となることを、心から応援しています!

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